記事の詳細
質的調査の実践ガイドライン(質的調査研究でデザインを再定義)
グラウンデッド・セオリーの原理に基づくデザインの進化
グラウンデッド・セオリーは、1960年代にバーニー・グレイザー(Barney G. Glase)とアンセルム・ストラウス(Anselm Leonard Strauss)によって提唱されたデータ中心の研究手法です。この方法論は、仮説や予備的な仮定を排除し、フィールドから収集されるデータをもとに新たな理論や概念を構築することに焦点を当てています。
デザイン分野においてグラウンデッド・セオリーを導入することは、デザイン思考を更に洗練させ、多面的な視点からの検討を奨励する重要な段階です。特定のユーザーデータや異なる文化的背景から、デザインの基本原則や手法を再評価し、多文化環境に適した新たなデザイン戦略を策定することが可能になります。このアプローチはユーザーセンターのデザインと、文化的多様性を尊重するアプローチの促進を支援します。
デザインの要諦は、ユーザーのニーズや問題を解決することにあります。しかしそれを実現するためには、感覚や経験だけでなく、実際のデータやユーザーからの反応に基づいた緻密な洞察が欠かせません。
質的研究手法をデザインプロセスに取り入れることで、ユーザーの経験、感情、及び価値観を深くかつ緻密に把握することが可能になります。著名な研究者たち、例えばCreswell & Poth (2017)、Saldaña (2015)、Charmaz (2014)、Miles, Huberman & Saldana (2013)らによれば、質的研究は、人間の豊かで多面的な経験を洞察力豊かに解明するための鍵となる手法として高く評価されています。
デザインと質的研究の組み合わせを通じて、ユーザーの潜在心理や感情を詳細に理解することが可能となり、得られた洞察を元に革新的なデザイン提案が実現できます。この記事では、デザイン分野でのグラウンデッド・セオリーの活用方法や、それがもたらすデザインの質的進化に関して深く考察します。
デザインにおける質的社会調査 (洞察と実践への詳細なアプローチ)
質的調査デザインの精緻さ
デザインの分野では、質的社会調査が真のユーザーニーズやコミュニティの価値観の理解を促進する中心的な役割を果たしています。この方法は、デザイン思考や製品開発において、実際の利用者の声を取り入れ、より人間中心の解決策を生み出すためのツールとして機能します。
1.目的の洗練
【定義】
調査の目的とは、特定の調査を進行させる背後の主要な動機や狙いを示すものです。これは、研究全体を通じての指針として機能し、研究活動の具体的な方向性や焦点を確立します。
【目的の特定の重要性】
研究の目的が不明確な場合、調査プロセスは方向を見失う可能性があります。この結果、不必要な時間やリソースを消費することになるだけでなく、得られた結果の信頼性や妥当性も疑問視されるリスクが高まります。
【洗練された目的の特徴】
⚫︎明瞭:調査する主題や焦点がはっきりとしており、具体的な研究の問いや課題が明示されている。
⚫︎制約がある:研究の範囲が広すぎず、特定のトピックや視点に焦点をしぼっている。
⚫︎達成可能:手元にあるリソースや技術、与えられた時間の制約を考慮した上で、実現可能な目標として設定されている。
【洗練のプロセス】
⚫︎明文化:初期段階の研究のアイディアや考えを明確に書き出す。
⚫︎文献調査:既存の文献や関連研究を探索し、その中で未解決の問題点や新しい視角を見つけ出す。
⚫︎焦点絞り込み:研究の主題やキーポイントを特定し、それを中心に研究を絞り込む。
⚫︎フィードバック収集:研究のアイディアや目的を同僚や専門家と共有し、彼らの意見やフィードバックを取り入れて調査目的を研ぎ澄ます。
⚫︎定期的な見直し:研究の進行に合わせて目的を見直し、必要に応じてその方向性や内容を微調整する。
【結果の応用】
よく練られた目的は、研究方法や手法の選択においてガイドラインとして機能します。また、結果の解析や評価がより明確かつ効果的に行え、得られた知見がその後の研究や実践への適用に際しても、より有意義なものとなります。
2.サンプリングの緻密化
【定義】
サンプリングは、大規模な集団から特定のサブセットや個体を選択する過程を指す。緻密化されたサンプリングは、研究の目的や問いに最も応答可能で関連性が高い参加者や状況を選出することを中心とする方法です。
【サンプリングの重要性】
適切なサンプルの選定は、得られるデータの信頼性や妥当性を高める鍵となります。不適切なサンプリングは、誤った解釈や結論を導くリスクを増大させ、研究全体の価値を低下させる可能性があります。
【緻密化されたサンプリングの特徴】
⚫︎目的に合致:選ばれたサンプルは研究の主要な目的や疑問点に直接対応している。
⚫︎多様性の考慮:さまざまな背景や視点をもつ参加者が適切に代表されている。
⚫︎深度:サンプリングは研究テーマや特定の問いに対して、深い洞察や関連性を持つ。
【サンプリングのプロセス】
⚫︎目的の明確化:研究の中心的な目的や問いをしっかりと理解する。
⚫︎対象集団の特定:研究における主要な対象となる集団の範囲や特性を明確にする。
⚫︎選択基準の設定:取り上げるべき参加者の特性や条件を定める。同時に、除外すべき条件も特定する。
⚫︎サンプリング戦略の決定:適切なサンプルサイズやサンプリングの手法を選定する。
⚫︎反復的サンプリング:必要に応じてサンプリングを繰り返すことで、研究の質や範囲を拡張・深化させる。
【結果の応用】
緻密なサンプリングを通じて得られたデータは、鮮明で具体的な結果を生み出します。これにより、研究の結果は他の状況や背景にも適用可能な形で提供され、広い範囲の応用が可能となります。
3.データ収集手法の選定
【定義】
データ収集手法の選定は、調査の特定の目的や問い、目的とする対象集団の性質、そして研究の背景や文脈に合わせて、最も効果的な方法を決定する過程を指します。
【手法の選定の重要性】
予め計画的に正しい手法を選択することは、得られるデータの質と信頼性を確保するための基盤となります。一方、不適切な手法を採用すると、データが不完全であったり、重要な情報を欠落させるリスクが増大します。
【主な質的データ収集手法】
⚫︎インタビュー:対象者との直接対話を通じて、その経験、意見、感情などの深層情報を手に入れる方法です。
⚫︎参与観察:研究者自身が目的のコミュニティや場面に参加し、内側からの視点で現地の状況や文化を詳細に観察する方法。
⚫︎フォーカスグループ:一つのテーマに焦点を当てて、グループ内での討論を通じて多角的な意見や視点を収集する方法。
【手法の選定プロセス】
⚫︎目的の明確化:研究の中心的な目的や疑問をしっかりと理解する。
⚫︎対象の特性の評価:調査の対象となる集団の特性や背景を詳細に検討する。
⚫︎手法の評価:各手法の長所、短所、適用可能な文脈を精査する。
⚫︎制約の考慮:利用可能な資源、期間、アクセス性などの実際の制約を考慮して、最も合致する手法を選ぶ。
⚫︎手法の組み合わせ:状況や目的に応じて、異なる手法を組み合わせて使用することも考慮する。
【結果の応用】
適切なデータ収集手法を使用することで得られる情報は、精密で詳細です。そのため、このデータを基にした後続の分析や結論は、より高い信頼性と妥当性を持つことが期待されます。
4.研究プロトコルの洗練
【定義】
研究プロトコルは、研究のすべての段階と手順を体系的にまとめたガイドラインまたは文書を指します。これは、研究活動の統一性、透明性、そして再現性を確保するための基盤を提供します。
【プロトコル洗練の重要性】
正確に洗練されたプロトコルは、研究プロセス中の誤解や誤りを最小限に抑えることができます。さらに、他の研究者が同じ研究を再現する際の指針として、また、第三者が研究を客観的に評価するための基準として機能します。
【洗練されたプロトコルの特徴】
⚫︎明瞭性:手順や方法論が詳細に、そして明確に記載されていること。
⚫︎総合性:研究の各段階、つまり計画、実施、評価、そして報告が完全にカバーされていること。
⚫︎柔軟性:予期しない障害や変更に迅速に対応できるように、一定の適応性を持っていること。
⚫︎アクセシビリティ:他の研究者がプロトコルを容易に確認し、理解することができる形式や構造であること。
【プロトコルの洗練プロセス】
⚫︎目的の再確認:研究の中心となる目的や問いを明確に持ち、それに合わせてプロトコルを整える。
⚫︎手法の選択:研究の目的に最も適したデータ収集手法や分析方法を選定。
⚫︎詳細な手順の明記:データの収集から解析、解釈の方法までを詳細に記述。
⚫︎ステップバイステップの計画:研究の開始から結果の報告までの流れを段階的に計画。
⚫︎倫理的考慮:研究活動におけるエシカルな問題や取り組みを明確にし、それに対する取り組みや対策を記載。
⚫︎フィードバックの取得:研究プロトコルの草案を他の専門家や研究者に共有し、意見やアドバイスを求める。
【結果の応用】
明確で洗練された研究プロトコルの採用は、研究の結果が高い品質と信頼性を持つことを保証します。これにより、得られた知見や結果の普遍性や適用範囲が広がり、研究の影響力や貢献度が向上します。
5.データ収集の実践
【定義】
データ収集の実践は、研究の目的や疑問点に答えるために、計画やプロトコルに基づいて具体的な情報やデータを収集する活動を意味します。このステップには、さまざまな手法やツールを適切に利用することが求められます。
【実践の重要性】
データ収集の品質は、その後の分析、結果、そして結論に大きな影響を与えます。適切なデータ収集手法を用い、丁寧な実践を行うことで、研究の信頼性や妥当性を高めることができるのです。
【データ収集の主要手法】
⚫︎インタビュー:対象者との一対一の対話を通じて、深い情報や意見を得る。構造化された質問リストや半構造化のアプローチを採用することが多い。
⚫︎参与観察:研究者がアクティブに現場に参加し、実際の行動や反応を観察し、洞察を深める。
⚫︎フォーカスグループ:多様な視点を得るために、特定のテーマに焦点を当ててグループでのディスカッションを実施。
⚫︎文書分析:既存の公式文書、メディア記事、書籍などを研究し、その中から必要な情報や文脈を抽出。
【データ収集のステップ】
⚫︎準備:研究の目的に合わせて、適切な手法やツールを選定。設備、場所、時間帯を整える。
⚫︎実施:情報の収集を始める際には、研究の目的や背景を参加者に説明し、安心感を与える。
⚫︎記録:収集した情報を整理・分類し、保管。特に、電子データや口頭の情報は迅速に書き留める。
⚫︎リフレクション:実施したデータ収集の効果や問題点を自己評価し、必要に応じて手法やアプローチを再評価。
【結果の応用】
正確に収集されたデータは、分析や解釈の基盤となります。これにより、研究の質が向上し、その結果、研究の意義や影響力が増大する可能性があります。
6.データ分析の高度化
【定義】
データ分析の高度化は、緻密に収集された質的データを効果的に整理、評価し、その中から新しい洞察、関連性、隠れた構造を明らかにする過程を意味します。これにより、データの背後に隠れた本質や意味を探求することが可能となります。
【分析の重要性】
収集したデータを適切に分析することで、情報の背後に潜む真実や複雑な関係性を解明できます。これにより、研究の目的に対する答えや新しい知見を得ることができるのです。
【主要な分析手法】
⚫︎コード化:データセット内の情報を系統的にラベリングし、その後の分析を容易にする。
⚫︎テーマ性分析:一貫したテーマやトピックを同定し、それらがデータ全体にどのように関連しているかを探求。
⚫︎グラウンデッド・セオリー:データそのものから新しい理論やモデルを派生させるアプローチ。
⚫︎記述的分析:収集したデータの特性や特徴を詳細に記述し、初期の理解を深める。
【分析のステップ】
⚫︎データの整理:全てのデータを確認し、構造化またはセグメント化する。
⚫︎初期のコード化:初回の読み取りを基に、明確なコードやカテゴリを定義。
⚫︎深層分析:初期のコードを統合し、より複雑なテーマや関係性を構築。
⚫︎結果の可視化:分析結果をグラフィカルに表現し、明確な洞察や関係性を提示。
⚫︎解釈と推論:得られた結果を基にして、研究の目的や疑問に対する答えを導出。
【質的分析ソフトウェアの活用】
⚫︎ソフトウェア(例:NVivo、ATLAS.ti)を使用すると、データの組織化、分析、可視化が効率的に行える。
⚫︎さまざまなツールを用いて、データ間の複雑な関係性やパターンを視覚的に捉えることが可能。
⚫︎分析の透明性を保ちながら、他の研究者との共有や協力が容易になる。
【結果の応用】
高度化された分析によって明らかにされた洞察や結果は、具体的な実践や政策策定、さらなる研究の方向性を指し示す重要な指針となります。
7.結果の明瞭な提示
【定義】
結果の明瞭な提示とは、研究の成果を、関係者や一般の人々に対して明確かつ効果的に伝えるためのアプローチです。このステップは、研究の真の価値や意義を伝える上で欠かせないものとなっています。
【提示の重要性】
ただ結果を示すだけでは十分ではありません。それをどのように伝えるか、そして受け手がどのように受け取るかが、その研究の真価を決める要因となります。明確な結果の提示は、研究の信頼性や認知度を向上させる効果があります。
【主要な提示方法】
⚫︎テキスト:伝統的な論文やレポート形式を用いて、研究の結果や考察を詳細に説明。
⚫︎ビジュアル:視覚的な要素を利用して、研究の結果やパターンを一目で理解できるように提示。
⚫︎プレゼンテーション:生のデータや分析結果をスライドや話し言葉で効果的に伝える。
【結果提示のステップ】
⚫︎結果の整理:分析から得られた主要な情報やパターンをハイライトし、整理。
⚫︎情報の選択:プレゼンテーションの目的やオーディエンスに合わせて、最も重要な情報を選択。
⚫︎フォーマットの選定:情報をどのような形式やレイアウトで伝えるかを決定。
⚫︎明瞭さの確保:誤解を避けるための補足説明や視覚的サポートを追加。
⚫︎フィードバックの収集:一旦作成した結果の提示を他者に見せ、意見や改善点を収集。
【結果の応用】
正確で明瞭に提示された結果は、さまざまな分野や業界での意思決定や戦略策定の基盤として活用されます。さらに、公共の利益を高めるための政策やプログラムの策定にも役立ちます。
8.結論の構築と推奨
【定義】
結論の構築と推奨は、研究の成果と洞察を総合し、それらの知見から得られる具体的な指示やアドバイスを形成するプロセスです。この段階では、研究の成果を現実の文脈に適用し、実際のアクションや将来の研究方向についての提案を行います。
【構築の重要性】
研究の結果やデータのみでは、それがどのような意義を持つのか、またどのような実際の行動や変更が必要なのかが明らかではありません。結論と推奨を明確にすることで、研究の意義やその応用方法を明示し、実用的な価値を提供します。
【主要な要素】
⚫︎結論:全体の研究を通じて得られた主要な洞察や発見を整理し、それらの意味を明確にする。
⚫︎推奨:研究結果から導き出される具体的な提案や行動計画。
⚫︎将来の研究への示唆:現在の研究の制限や未解決の問題に基づき、次に探求すべき研究のテーマや方法を提示。
【結論と推奨のステップ】
⚫︎発見の再評価:研究全体を見直し、その主要な結果や意義を再確認。
⚫︎行動の特定:研究結果を元に、具体的な行動や改善策を明確化。
⚫︎推奨の整理:提案された行動を具体的、実用的なステップや戦略にまとめ上げる。
⚫︎将来の方向性の考察:現在の研究の成果と制約を考慮して、次にどのような研究が有益かを検討。
【結果の応用】
明確で洗練された結論と推奨は、実際の現場や業界での実践や、新たな研究の方向性を提供します。これにより、研究は単なる学問的な活動から実際の問題解決のツールとしての役割を果たすことができます。
デザインと人間の深層心理
デザインと質的社会調査の結びつきは、人間の心の奥深くに存在する経験、感情、価値観へのアクセスを可能にします。デザインは、この質的な探求を通じて、より独自で効果的な解決策を提供する力を持っています。質的社会調査は、数値や固定されたデータでは捉えきれない、人々の心の動きや背後にある意味を明らかにする方法論を提供します。これは、デザインにおいて人間の真の欲求やニーズを理解し、それを反映したデザインを創出するための鍵となるアプローチです。
デザインと質的社会調査の融合
デザインと質的社会調査は、それぞれ異なるアプローチを持つものの、その核心には人間の深層心理への理解が求められます。デザインのプロセスに質的調査を取り入れることで、真のユーザーニーズや独特な課題を明確にし、それに基づいたデザインソリューションを提供することができます。
質的社会調査の精髄
質的社会調査は、人々の日常の経験、感情、そして深い意識を捉えるための研究手法として開発されました。これは、数値や統計だけでは捉えきれない人間の繊細な感情や経験にアクセスするための重要なツールです。
デザインへの質的研究の応用
デザインは、表面的な要求やニーズを超えて、ユーザーの真の欲求や感情に応えることを目指します。質的研究の手法をデザインプロセスに組み込むことで、ユーザーの心の動きや背後にある価値観、さらには社会的・文化的背景との関係性を深く探求することが可能となります。この融合は、ユーザーセンターのデザインを実現するための新たなフレームワークを提供し、デザインの質を一段と高める可能性を秘めています。この記事では、デザインと質的社会調査の交差点における新しい可能性や展望について詳細に探ることを目指します。
続いて、デザインの文脈において、質的研究がどのようにその中核として働き、それをどのように具体化できるかについて詳細に探求します。
I.研究のアプローチの選択
質的研究は、主に定量データよりも人々の経験、感覚、文化や社会の構造に焦点を当てています。これらの情報を得るための多様なアプローチやフレームワークがあり、各々が異なる特徴や手法を持っています。特に、実務に基づく研究では、研究の対象や文脈が独自であるため、アプローチの選択がその後の研究の質に大きく影響します。以下に、アプローチの選択に関する詳細な説明を行います。
目的の明確化
【実務の問題の特定】
実務の現場で発生している具体的な問題や課題を洗い出します。これにより、研究の対象となる問題の明確化や優先順位の設定が可能となります。
【研究の範囲の特定】
問題を解決するための研究の幅や深さを明確にします。これは、どの地域や対象者に焦点を当て、どの程度の期間やリソースで研究を行うのかを明示するためのステップです。
【実務との整合性の確認】
選択する研究方法が、実務の実際や特定された問題に対して適切であるかを確認します。このステップでは、研究が実務の改善に資するかどうかの確認を重視します。
文献の参照
【実務に関連する研究アプローチの理解】
CreswellやPothの書籍に加えて、実務の文脈に特化した文献や事例研究を参考にします。これにより、似たような文脈や問題に対してどのようなアプローチが取られてきたのか、その効果や限界は何であったのかを理解します。
【先行研究の活用】
先行研究を詳細に検討することで、同じような問題や課題に対する過去の取り組みや成果、更には未解決の問題点などを明らかにします。これにより、新たな研究が過去の研究を補完し、より深い洞察を得ることが期待されます。
【文献の選定の具体化】
実務の文脈や問題に最も適した文献を選定するための基準や指針を設定します。これにより、文献の選定が効率的かつ的確に行われるようになります。
研究のアプローチの選択は、実務における問題解決のための基盤となるステップです。実務の現場で直面する問題や課題を効果的に解決するためには、この選択を慎重に進めることが必要です。
II.データのコーディング※
実務の研究における質的データのコーディングは、多様で複雑な情報を洗練された形で整理し、分析可能な構造へと変換するための不可欠な手段です。実務の中で顕在化する多岐にわたる課題や問題点は、適切なコーディングを通じて、明瞭かつ深い洞察を得るための資料へと変わります。
グラウンデッド・セオリー・アプローチは、このコーディングプロセスの中で特に価値を持つものであり、質的データの中に潜むパターンやテーマを明らかにするための有効なツールとして広く認識されています。このアプローチは、収集されたデータの背後にある深層の意味や関連性を探求することを可能にします。
(※コーディングは、グラウンデッド・セオリー・アプローチにおける中心的な要素であり、定性データ(例: インタビュー内容やフィールドノート)を体系的に分析し、それを意味のあるカテゴリーやテーマに分割する作業を指します。)
以下で、この重要なプロセスについてさらに詳細に探っていきます。
データの初読
【現場のリアルな声のキャッチ】
実務に基づく研究では、現場の声や実際の経験が非常に重要です。データを読むことで、現場からの生の声やフィードバックをキャッチし、それがどのような背景や文脈から来ているのかを感じ取ることができます。
【初期の洞察の獲得】
この段階で研究者は、可能な限り先入観を排除し、データから得られる初めての感じや印象に注意を向けます。これは、後の分析の方向性を決定するための大切なステップとなります。
データの整理と再コーディング
【初期コーディングの詳細化】
実務に関連する具体的な問題点や課題、成功事例など、データ内の特定の部分に、詳細なコードやラベルを割り当てます。この段階では、細かい部分までのコーディングを行い、データの深層を探ることを心がけます。
【実務的背景の考慮】
再コーディングの際、特定のコードやテーマが実務上どのような意味を持つのか、その背景や文脈を常に考慮しながら、コーディングの精緻化や修正を行います。
【実務上の課題の特定】
コーディングの過程で、実務上の主要な課題や問題点、または改善点を明確に特定し、それを中心にデータの整理やテーマの作成を行います。
【反復的な検証】
実務の研究では、新しい情報や変化が頻繁に起こることが考えられます。そのため、コーディングは繰り返し行われ、新しい情報や変化に応じて、コーディングやテーマの修正や再評価が必要となることがあります。
データのコーディングは、実務に基づく研究の品質や信頼性を確保する上で、不可欠なステップとなります。このプロセスを通じて、実務上の現実的な問題や課題を明確に捉え、それに基づいて研究の結果や提案を形成することが可能となります。
III.グラウンデッド・セオリーの採用
グラウンデッド・セオリーは、研究者が研究の現場や実務の実際に即した情報を基に、新たな理論やフレームワークを構築する革新的なアプローチです。この手法は、研究対象の状況やコンテクストを深く理解し、それに基づいて理論を構築する点で非常に強力であり、キャシー・シャーマズ(Kathy Charmazは)は特にこの方法を更に洗練させ、現代の研究文脈に適した手法として提示しています。
Kathy Charmazは、グラウンデッド・セオリーを社会学の分野で発展させ、質的研究におけるアプローチの理論化を進めました。彼女の貢献により、この手法はより体系的で適用可能なものとなり、多くの研究者や実務家に受け入れられました。
以下は、実務に基づく研究におけるグラウンデッド・セオリーの適用とその手順について詳しく説明します。
実務の現場からのデータ収集
【オンサイトインタビュー】
実際の業務の場で直接ステークホルダー、従業員、顧客、またはその他の関係者とのインタビューを実施。このインタビューを通じて、実際の課題、期待、体験などの深層的な情報を収集します。
【実務の参加観察】
研究者が実際に業務の一部として参加することで、業務の内側からの視点を得ることができます。これにより、公然とは話されにくい実務の潜在的な問題や隠れた価値も捉えることができます。
オープンコーディング
【初期の実務分析】
得られた生のデータを細かく分析し、初期のコードやカテゴリを形成します。これにより、データの中から浮かび上がる業務の特性やトレンドを掴むことができます。
【主要な実務概念の特定】
業務の実際から繰り返し見られるキーワードやパターンを明らかにし、その概念を識別します。
アキシャルコーディング
【実務概念間の関連性の探求】
既に特定された概念やテーマ間の関係を深く探求し、それらがどのように相互に影響を与え合っているのかを分析します。
【業務フローの理解】
実務の各プロセスが他のプロセスとどのように関連し、連動しているのかを明確にすることで、業務全体の流れや構造を把握します。
選択性コーディング
【実務の中心的課題の識別】
全てのデータや情報を通して、業務の中心的な課題やテーマを特定します。
【業務の改善提案や理論の構築】
上記の課題を解決するための具体的な戦略やアプローチを考案し、それをもとに新しい業務モデルやフレームワークを構築します。
理論の完成と検証
【フィードバックの収集】
作成した業務モデルやフレームワークを実務のステークホルダーに提示し、その実用性や適切性についてのフィードバックを収集します。
【理論の再評価と修正】
得られたフィードバックをもとに、提案されたモデルやフレームワークの改善や調整を行います。これにより、より現実的かつ効果的な業務の進め方を導き出すことができます。
Charmazの提案するグラウンデッド・セオリーの手法を実務の現場に適用することで、その場の実際に即した有益な知見や改善策を導き出すことが可能となります。
IV.エスノグラフィックの手法
エスノグラフィーは、社会学的研究手法の一つで、特定のコミュニティや文化の中での人々の生活や習慣を詳細に記述・分析する方法を指します。この手法は、参加観察や深いインタビューを中心として、日常の行動や習慣、信念、価値観、コミュニケーションの様式などを詳細に捉えることを目的としています。
実務の現場にエスノグラフィーを適用すると、組織内の文化やチームのダイナミクス、業務の流れや隠れたルールなど、表面的には見えにくい深い部分の理解が得られます。これにより、組織の課題や潜在的な可能性を明らかにするための洞察を得ることができるのです。
この研究手法は、実務の現場の実際の動きや文化を真正直に捉えるための鍵となり、その結果をもとに業務改善や組織文化の強化策を策定するための重要な情報を提供します。
フィールドワーク
【職場での参加観察】
研究者は実務の現場に実際に足を運び、従業員の日常のタスクの遂行やコミュニケーションのスタイル、チーム間の相互作用などを直接観察します。これにより、業務の日常的な流れや組織の微妙なダイナミクスを理解します。
【業務プロセスのトレーシング】
始点から終点までの特定の業務プロセスを詳細に追跡し、各ステップでの判断基準や問題点、効率性の機会を明らかにします。
インタビュー
【従業員との半構造化インタビュー】
インタビューガイドを用意しつつ、従業員の自由な意見や感想を求めます。これにより、数値データでは捉えられない深い洞察や経験を把握することができます。
【業務ストーリーテリング】
従業員に特定の業務経験や挑戦、成功の瞬間などのエピソードを語ってもらい、その経験から学べることや組織の文化を感じ取ります。
実務文書の収集
【業務マニュアルやガイドライン】
組織の公式な業務手順やポリシーを理解するための情報源として活用します。
【会議の議事録やメール】
これらの文書を通じて、チームの意思決定の過程やコミュニケーションの流れ、さらには組織内のパワーダイナミクスや優先事項を把握します。
データの分析
【業務フローのマッピング】
観察された業務の流れや手順をビジュアル化し、その中でのボトルネックや効率化の機会を識別します。
【組織文化の解釈】
従業員から収集したデータや文書をもとに、組織の核心価値や信念、それが業務にどのように影響しているかを解釈します。
エスノグラフィの報告
【実務の深い記述】
収集されたデータや観察をもとに、組織の日常や業務プロセス、文化を詳細かつ客観的に記述します。これにより、組織の独自性や特色を明らかにします。
【推薦や提案】
研究を通じて得られた洞察や発見をもとに、業務プロセスの改善点や組織文化の強化方法などの具体的な提案を行います。
実務の現場でのエスノグラフィーは、組織やチームの独自の文化や業務の深い理解を得ることができる貴重な手法です。研究者は、このアプローチを通じて、業務の実際や組織のダイナミクスを詳細に描き出し、その上で効果的な提案や改善策を提供することができます。
V.データ分析の方法
質的データ分析は、実務の現場での様々な情報や経験を理解し、意味を導き出すための手法です。実務に基づいた質的データ分析は、特定の業務や組織文化、チームのダイナミクスなどの深い理解を目指します。以下は、実務的な文脈における質的データ分析の手法に関する詳細な説明です。
データの前処理
【トランスクリプトの整理】
インタビューやサーベイの結果を文字データとして整理し、分析しやすい形式にします。無関係な情報やノイズを除去することも重要です。
【業務文書の収集】
これらの文書は、実務の具体的な業務フローや決定の背景を理解するための貴重な情報源となります。それらを整理し、分析に利用しやすい形にまとめます。
初期のコーディング
【オープンコーディング】
各データポイントや発言に基づき、初期のコードやラベルを割り当てます。この段階では、多くのコードが生成されることが一般的です。
【業務プロセスの識別】
具体的な業務のステップやその間のインタラクションを特定し、それらがどのように連動しているかを把握します。
テーマの発展と統合
【アキシャルコーディング】
データ内の関連性やパターンを深く探求し、より洗練されたテーマやカテゴリを形成します。
【業務課題の特定】
分析を通じて、業務の課題や改善の必要性がある部分を特定します。。
実務の文脈での解釈
【ケーススタディの活用】
特定の事例やケースを詳しく分析し、実務の文脈での意味や影響を解釈します。
【ステークホルダーのフィードバック】
分析の中間結果や仮説を実務の関係者にフィードバックしてもらうことで、解釈の正確性や適切性を確認します。
結論の導出と提案
【実務の改善策の提案】
分析を基にして、業務の効率化や品質の向上、コミュニケーションの最適化などの具体的な提案を行います。
【組織文化や業務環境の考慮】
提案される改善策が現実の業務環境や組織文化に合致するかどうかを詳細に検討し、その実現性や影響を予測します。
実務に基づく質的データ分析は、業務の実際や組織の文脈を深く理解することを前提としています。この手法を適切に用いることで、業務の質を向上させるための有効な提案や改善策を導き出すことができるでしょう。
質的社会調査(現場体験の重要性とその深遠なる洞察)
質的社会調査は、人々の経験、感情、考え方、及び行動の深層を探る研究手法として広く認識されています。このアプローチは、紙上の数字や言葉の情報を超え、現場での具体的な体験や感情、そして人々の実際の声を対象としています。実地調査は、机上の空論や初歩的な分析では掴むことのできない、繊細な洞察や情報を明らかにします。
この研究手法の利点を具体的に挙げると、まず実体験からの洞察があります。実地調査を行うことで、研究者は参加者の感情や経験を直接的に感じ取ることができ、この経験は文字データだけでは得ることのできない深みを持つ洞察を提供します。次に、文化や社会の実情の理解。現場への直接訪問により、その場の文化や雰囲気を深く感じることで、その場所の特性や社会的背景を鮮明に理解することが可能です。さらに、真実の声の取得。インタビューや対話を通じて、参加者の心の奥に隠された意味や感情、動機を掘り下げることができます。そして、柔軟な研究の進行。現場調査は新しい発見や突発的な展開に迅速に適応し、研究の深さや質を向上させる要因となります。
結論として、質的社会調査は実際の体験や人々の声に焦点を当て、真の核心に到達する研究を可能にします。研究の本質は、実際の体験の中に存在しています。
<参照文献>
・ Creswell, J. W., & Poth, C. N. (2017). Qualitative inquiry & research design: Choosing among five approaches. SAGE Publications.
・Saldaña, J. (2015). The coding manual for qualitative researchers. Sage.
・Charmaz, K. (2014). Constructing grounded theory. Sage.
・Miles, M. B., Huberman, A. M., & Saldaña, J. (2013). Qualitative data analysis: A methods sourcebook. SAGE Publications.
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